〈トラウマ・虐待・記憶〉
「時間薬」という言葉があります。
たしかに時間の経過が現実・心の問題を解決することもあります。
ただそれは多くが、その傷の深刻さという点、惨さという点から考えると限定的であったり、あるいは軽微である場合が多いように感じます。
(もちろん悩みというものは、本人にとって悩んでいる最中にはすべて深刻なものですが。あくまで一般化をした場合です。)
深刻なトラウマ(心の傷)は、むしろ時間の経過とともにより深く、広範囲にその人の心・人生に悪影響を与えることもあります。
肉体的な病気に例えるならば、前者は「風邪」、後者は「癌」のようなものをイメージすればわかりやすいでしょうか。
「風邪」ならば安静にしてしっかりと睡眠をとるだけで良くなったりもします。しかし、「癌」ならば時間の経過は腫瘍を肥大化させたり、全身への転移が進行して悪化させてしまうでしょう。
ことに養育者(親など)からの虐待は、本人も気づかない無意識のレベルで現実世界に悪影響を与えます。
これは人格形成期で受けた影響だからでしょう。
同じ衝撃的な出来事でも、子供と大人では差が出るのは当然です。
正直、(個人差はありますが)改善には時間がかかります。
徐々にではありますが、幼少期の虐待記憶に近づかなくてはならないからです。
それが辛くて、リタイアしてしまうケースも多いものです。
とくに年齢が若すぎると難しい部分があるのですが、これはすべての年齢の方に当てはまります。
過去にあまりに辛くて、無意識の領域に封じ込めた記憶なのですから。
だからこそ、そこに敢然と立ち向かい、過去を受け入れていくクライアントの方には敬意を感じます。